【介護施設の組織診断】「書類はあるから〇」が一番危ない!医療体制が機能しない3つの壁【第2講】

前回の第1講では、特養や老健における「入院による空床損失」を数値化し、稼働率アップと経営改善の土台作りについて解説しました。

しかし、経営者や施設長から「いざ現場に『医療体制を整えよう』と言っても、看護師から抵抗されるのではないか」「形だけのマニュアルや委員会で終わってしまう」というお話もお聞きします。

株式会社ONMUSUBIの『施設医療アカデミー(業務改善コース)』を設けてます。実際に自施設だけではどうしてよいかわからない課題を施設医療を整えてきた眞鍋のノウハウのもとに提供しています。

連載の第2回となる本記事では、現場の医療体制が進まない根本的な原因である「3つの壁」と、自施設の組織的ボトルネックを正確に診断する「4層チェックリストの活用法」を解説します。

解説動画

なぜ、介護施設の「医療体制の整備」はなかなか進まないのか?

「感染症対策の委員会を作った」 「看取りや急変時のマニュアルも一通りファイルしてある」

それにもかかわらず、いざ利用者の状態が急変すると現場がパニックになり、結局すぐに救急搬送してしまう──。この現象の裏側には、施設組織が抱える「3つの見えない壁」が存在しています。

1. 制度や役割に対する「固定観念の壁」不安

生活における医療職の動き方は習っていません。また、「治療は病院の仕事であり、施設はあくまで生活の場である」という古い二元論が、スタッフや配置医の意識に根強く残っています。特に、病院勤務の経験が長い看護師ほど「施設で医療的な判断や処置をするのは怖い」と感じてしまいがちです。

2. 看護・介護職の「経験・教育不足の壁」

看護学校や介護福祉士の養成課程では、「施設における医療連携」や「看取りのプロセス」を体系的に学ぶ機会がほとんどありません。そのため、急変時の初期対応や医師への適切な報告・相談のスキルが不足し、責任を恐れて病院へ依存せざるを得ない構造になっています。

3. 家族・医師・職員間の「合意形成・連携不足の壁」

利用者やご家族の「最期までここで暮らしたい」という意向(ACP・人生会議)や、いざという時のDNAR(心肺蘇生拒否)の方針が、生活相談員やケアマネジャーだけで止まっており、配置医や現場の看護・介護スタッフ全体に共有されていないケースが非常に多く見られます。また医療的な説明を医師から受けるようなしくみ(セッティング)が不足。医師も利用者やご家族の意向がわからないため、その結果、医師も判断に迷い、安全のために救急車を呼ぶ判断になってしまいます。

「書類はあるから〇」が一番危険!形骸化した組織の罠

多くの施設が実地指導(運営指導)対策として、どこからか引っ張ってきたマニュアルをファイリングし、「うちの施設は医療体制の書類が揃っているから大丈夫」と安心しています。

しかし、現場のスタッフ全員がその内容を理解し、日常のケアとして実践できているかといえば、そうではないケースがほとんどです。「書類上の形式(ある)」と「現場での実践(機能している)」の間には、大きな隔たりがあります。法的なことがどのように現場に紐づけられているか理解しておられるところは少なく感じます。何のためにしないといけないのか?これは大事なキーワードになっていきます。

現状の組織課題を正確に把握するためには、スタッフの記憶や思い込みを排除し、組織を多角的な視点から「診断」する必要があります。

【4層チェックリスト】チームと組織のどこに問題があるかを見抜く

株式会社ONMUSUBIの『施設医療アカデミー』では、組織の医療体制を以下の4つの層(レイヤー)に分解してチェックする独自の診断手法を提供しています。

層1:【人間関係・チームの雰囲気】

  • スタッフ間の信頼関係は構築されているか
  • メンタル面の安定や、心理的安全性の高い組織文化があるか
  • 管理職(施設長・統括)のマネジメントの質は保たれているか

層2:【スタッフのスキル・判断力・行動力】

  • 1日の業務の段取りや、急変時の初期対応に迷いがないか
  • 医療と介護の実践力、および医師への報告・連携(SBAR等)の行動力が備わっているか
  • 日々の業務の中で学習・成長しようとする姿勢があるか

層3:【情報共有・連携・チームケア】

  • 申し送りや記録の質が担保され、多職種(薬剤師・栄養士等)できちんと連携できているか
  • 委員会活動が形骸化せず、実質的な機能を発揮しているか
  • ご家族や外部機関との情報共有ルートが円滑に機能しているか

層4:【組織全体の仕組み・制度・教育環境】

  • マニュアルが現場の実態に即して定期的に見直されているか
  • 会議や委員会の決定事項が、必ず実行・追跡される仕組みになっているか
  • ICTやDX、生産性向上・職場環境の改善(処遇改善等)に組織として対応できているか

厳しめの評価こそが、組織の改善を加速させる

この4層チェックリストを使って現場の自己診断を行う際、最も重要なコツは「『誰かが知っている』『一応ファイルはある』という理由で安易に〇(丸)をつけないこと」です。

  • 「職員全員がその手順を日常的に実施できているか?」
  • 「形式だけでなく、実態が伴っているか?」

この厳しい基準でチェックしていくと、最初は多くの項目に「△」や「×」がつくはずです。しかし、恐れる必要はありません。バツや三角が多いほど、それだけ「伸び代(=改善すれば一気に収益や定着率が上がるポイント)」が明確になるということです。

チェック結果から最もボトルネックになっている層を特定し、「今月はここを直す」と優先順位を絞って対策を打つことが、組織を疲弊させずに医療体制を立て直す最短ルートとなります。

【ご案内】主任看護師や現場リーダーと行う『施設医療アカデミー』業務改善コース

「自施設のどこに組織的課題があるのか、客観的にチェックしてみたい」 「現場のリーダーや主任看護師と一緒に、チームの医療体制を仕組みから立て直したい」

そのための具体的なツールとして、株式会社ONMUSUBIでは『施設医療アカデミー(業務改善コース)』をご用意しています。

本コースでは、今回ご紹介した「4層の組織診断チェックリスト」をはじめ、現場のスタッフが動画を通じてチーム医療の重要性と具体的な役割分担を学べるパッケージを提供しています。

経営者が指示を出すだけでなく、このプログラムを通じて現場が自ら「何が不足していて、どう変えるべきか」に気づく仕組みを作ることで、離職を防ぎながら強固な医療体制を築くことができます。

次回(第3講)は、医務室の核となる「配置医・嘱託医との往診・オンコール体制の整え方、包括的指示のルール作り」について詳しく解説します。

▼ 自施設の組織課題をクリアにし、強固な医療体制を構築するために

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記事執筆者プロフィール

眞鍋 哲子(まなべ てつこ) 株式会社ONMUSUBI 代表取締役 / 看護師・介護支援専門員 看護師経験33年、うち高齢者施設看護に23年間従事(社会福祉法人での看護介護統括、主任看護師等を歴任)。産業医科大学 産業保健学部 非常勤講師(老年看護学)として15年以上教鞭をとるほか、福岡県「喀痰吸引等研修 講師養成課程」講師を務める。50床の特養にて年間延べ1,073日の入院を49日へ削減した実績をもとに、全国の高齢者施設に向けた医療・介護連携コンサルティング、研修、デジタル教育プログラム『施設医療アカデミー』を展開している。