「毎月新規の入所を受け入れているのに、なぜか施設の稼働率が95%を超えない」
──これは多くの現場で特養の空床対策がうまくいっておらず、介護施設の経営難に直面する法人の共通の悩みです。
「夜間の救急搬送や日中の外来受診の付き添いで、現場の施設看護師や介護職が疲弊し、離職が止まらない」
もし貴施設でこのような状態が続いているなら、年間で数百万円〜1,000万円規模の「入院による空床損失(隠れ赤字)」が発生している可能性が極めて高いと言えます。
2027年4月から完全義務化される「協力医療機関との連携」を控え、今、高齢者施設の医療体制は待ったなしの転換期を迎えています。
本記事では、看護師経験33年(高齢者施設看護23年)・介護支援専門員であり、産業医科大学非常勤講師(老年看護学)および全国の介護施設コンサルティングを行う株式会社ONMUSUBI代表の眞鍋哲子が、「特養・老健の入院を減らし、稼働率と利益を劇的に改善する施設医療マネジメントの第一歩」を実例データとともに解説します。
介護施設の経営難を招く原因は「入院と救急搬送」にある?
「高齢者の施設だから、体調を崩して救急搬送や入院になるのは仕方がない」 もし経営層や施設長がそう考えているとしたら、非常に危険です。入院や外来受診が常態化している介護施設には、経営を直接圧迫する3つの重大なリスクが潜んでいます。
1. 特養で1日約1万円、老健で約1.2万円の「空床損失」
利用者が病院へ入院している期間、介護保険の基本サービス費は算定できません(外泊時加算等の限定的な算定を除く)。 目安として、特別養護老人ホーム(特養)で1日あたり約1万円、介護老人保健施設(老健)では1日あたり約1万1,000円〜1万2,000円の減収(機会損失)となります。
仮に施設全体で月間延べ80日分の入院空床があれば、それだけで毎月80万円、年間で約1,000万円のキャッシュが消えている計算になります。新規入所の獲得にどれだけ営業努力をしても、裏側で入院による空床が多発していれば、穴の開いたバケツに水を注いでいるのと同じです。
2. 外来受診の付き添い・救急同乗による「施設看護師の離職」
救急搬送への同乗、外来受診の長時間にわたる付き添い、入院時看護サマリーや各種書類の作成など、入退院のたびに現場には膨大な業務負担がかかります。 「何かあったらすぐ病院へ」という体制は、一見安全に見えて、実は現場の施設看護師や介護職の時間を奪い、施設看護師の離職対策が進まない最大の原因です。結果として高額な人材紹介手数料(採用コスト)が発生し、法人の経営をさらに圧迫する悪循環に陥ります。
3. 医療連携加算や看取り介護加算が算定できない収益構造
入退院が激しい施設ほど日々のベッド調整や書類業務に追われ、看取り介護加算や協力医療機関連携加算、さらには科学的介護推進体制加算(LIFE)などの各種加算を安定して取得できない構造になりがちです。
つまり、「入院が多い」という現象は、単なる現場の健康管理の問題ではなく、「経営者が最優先で解決すべき経営課題」なのです。
【経営改善事例】50床の特養で年間入院1,073日を49日に減らした方法
「本当に施設の医療体制を見直すだけで、そんなに入院が減るのか?」と思われるかもしれません。 ここで、私(眞鍋)が実際に看護・介護統括および主任看護師として現場に入り、医務室の業務改善を行った特別養護老人ホーム(定員50床)の実績データを公開します。
改善前の実績:年間58件・延べ1,073日の入院(約1,073万円の損失)
着任当初、その特養では「少し熱が出たら外来受診」「状態が変わったらすぐ救急搬送・入院」が当たり前になっていました。当時の年間データは以下の通りです。
- 年間入院件数: 58件
- 年間延べ入院日数: 1,073日
- 空床による推定損失額(1日1万円換算): 年間 約1,073万円
50床の施設で年間延べ1,073日ということは、1年を通して常に約3床が空床になっているのと同じ状態です。
改善1年目:配置医とのルール化だけで入院日数が半減(約500万円の収支改善)
着任後、最初に行ったのは現場スタッフを叱咤激励することではありません。最初の3ヶ月間で徹底的に「入院件数・日数・受診理由」を数値化して把握し、配置医(嘱託医)と協議の場を持ちました。
経営者の皆様にぜひ知っていただきたい事実があります。 それは、「看護師は看護学校で『介護報酬・診療報酬の仕組み』も『施設看護師としての働き方』も一切習っていない」ということです。病院勤務の感覚のまま施設へ転職してくるため、どこまで施設内で対応してよいか分からず、責任への不安からすぐに病院を受診させてしまうのです。
そこで、配置医と「外来受診の基準」「往診のルール」「施設内で対応できる初期医療の範囲(包括的指示)」をすり合わせました。同時に利用者と家族の「施設で最期まで過ごしたい」という意向(ACP・人生会議)を共有しました。
この「医師・家族とのルール化」を行っただけで、1年目には延べ入院日数が約半分(約500日削減=約500万円の収益改善)となりました。
最終成果:介護職のケア向上と連動し「年間延べ49日」を達成
さらに業務改善を進めた結果、年間の延べ入院日数は「49日」まで激減しました。 1,073日から49日へ、95%以上の入院削減(年間約1,000万円以上の収益改善)です。
最後に医療を支えたのは「介護の力」でした。訪問歯科と連携した口腔ケアの徹底で誤嚥性肺炎を防ぎ、適切なポジショニングや水分・栄養管理などの重度化予防ケアを高めることで、「そもそも医療介入や入院が必要ない状態」を介護職が作り出したのです。
2027年義務化に備える!施設医療改善の4つの手順
多くの介護施設が業務改善や加算取得に失敗する理由は、「自施設の現在地(数値)を知らないまま、いきなり対策に飛びつくこと」にあります。
- 「感染症対策が義務化されたから、とりあえず形だけの委員会を立ち上げた」
- 「加算を取りたいから書類だけ揃えたが、実地指導(運営指導)で要件不備を指摘された」
- 「多職種連携を強化しようと号令をかけたが、何から手をつけていいか現場が混乱している」
現状把握なき業務改善は、地図を持たずに旅に出るようなものです。確実に稼働率を上げ、職員の離職を防ぐには、必ず以下の4つの手順を踏む必要があります。
- 現状把握(医療・稼働データの数値化)
- 課題の特定(自施設のボトルネックと優先順位の決定)
- 体制の整備(配置医・協力医療機関とのルール化、マニュアル整備)
- 記録と評価(月次での損益改善確認とPDCA)
【稼働率改善チェックリスト】施設長・主任看護師が確認すべき2つの経営指標
株式会社ONMUSUBIの『施設医療アカデミー(業務改善コース)』では、まず第1ステップとして「施設現状シート」への数値入力からスタートします。 理事長や施設長の皆様は、自施設の主任看護師や生活相談員に、以下の2つの指標が即答できるか確認してみてください。
指標1:施設の基本医療体制データ
- 施設種別・定員数に対する現在の平均稼働率
- 看護師の配置数と直近1年間の離職率
- 配置医(嘱託医)の回診頻度と、夜間オンコール・ICT連携ツールの有無
指標2:入退院・外来受診の実績データ(年間・月間)
- 年間入院件数 と 年間延べ入院日数(×約1万円=年間の空床損失額)
- 月間の外来受診回数 と 職員の付き添い延べ時間(×時給=見えない人件費流出)
- 年間の救急搬送件数 と 施設内での看取り件数
この数値を可視化するだけで、自施設が「何から手をつけるべきか」という優先順位が明確になります。
| 自施設の数値の特徴(課題) | 最優先で取り組むべき業務改善テーマ |
| 入院件数・救急搬送が多い | 配置医との往診・オンコール体制の整備、発熱・急変時の施設内初期対応フローの作成 |
| 外来受診の付き添い負担が大きい | 協力医療機関・専門科(精神科・皮膚科・歯科等)の往診・オンライン診療への切り替え、看護サマリーの標準化 |
| 感染症(コロナ・疥癬等)で現場が止まる | 感染対策委員会の実質化、現場で動くBCP(業務継続計画)シミュレーションの実施 |
| 加算が取れていない・2027年義務化が不安 | **協力医療機関との連携(2027年義務化)**の要件(年1回〜3回の会議・ICT連携)の整備、看取り・ACP体制の構築 |
高齢者施設の空床対策・医療体制に関するよくある質問(Q&A)
全国の施設経営者・施設長からよくいただく質問をまとめました。
Q1. 特別養護老人ホーム(特養)で1日入院(空床)が出ると、いくらの損失になりますか?
A. 要介護度や地域区分、加算状況にもよりますが、特養で1日空床になると約1万円、介護老人保健施設(老健)では約1万1,000円〜1万2,000円の介護報酬(基本サービス費)が失われます。年間で延べ1,000日の入院がある場合、年間約1,000万円の直接的な減収となります。
Q2. 介護施設で救急搬送や不要な入院を減らすには、何から始めればよいですか?
A. まずは過去1年間の「入院件数・延べ入院日数・外来受診の付き添い時間」を数値化することです。その上で、配置医(嘱託医)と発熱時や急変時の「施設内での初期対応ルール(解熱剤や補液などの包括的指示)」を文書で事前合意し、利用者と家族にACP(人生会議・看取りや急変時の意向)を確認して医師と共有することが最も効果的です。
Q3. 協力医療機関の連携(2027年完全義務化)までに、経営者がすべきことは何ですか?
A. 単なる協定書の締結だけでなく、「常時の相談体制」「診療体制」「入退院の受け入れ体制」の3要件を満たし、年1回以上の定期会議(ICT連携がない場合は年3回以上)や緊急時対応フローを文書化して運用する必要があります。病院側も連携先の施設を選別し始めているため、早期に施設側の医療・看護体制を整えることが不可欠です。
【ご案内】主任看護師にそのまま渡せる『施設医療アカデミー』業務改善コース
「数値を出す重要性は分かったが、具体的にどんなフォーマットで管理すればいいのか?」 「主任看護師や現場リーダーに、どうやって経営視点と医療体制の作り方を教育すればいいのか?」
その課題を丸ごと解決するために開発されたのが、株式会社ONMUSUBIの『施設医療アカデミー(業務改善コース)』です。
本コースでは、今回ご紹介した実績を誰でも再現できるよう、以下のツールと教育動画をパッケージでご提供しています。
- 入力するだけで空床損失額や優先課題が自動で算出される「施設現状・経営改善シート」
- 自施設の弱点が一目でわかる「実務チェックリスト」
- 主任看護師や現場スタッフが1本10分程度で学べる「全9講の業務改善解説動画」
経営者がゼロからマニュアルを作る必要はありません。このプログラムを施設の主任看護師や施設長に渡し、ステップに沿って自施設の数字を入力していくだけで、医務室が「コストと離職の種」から「高い稼働率と安心を生み出すエンジン」へと生まれ変わります。
次回(第2講)は、数値で見えた課題をさらに深掘りする「『マニュアルはあるから安心』が一番危ない!介護施設の医療体制が機能しない3つの壁と組織診断チェックリスト」について解説します。
▼ 自施設の「隠れ空床損失」をなくし、2027年義務化を勝ち抜くために
『施設医療アカデミー』の詳細・導入のお問い合わせはこちら:
https://college.coeteco.jp/s/onmusubi
★★この説明 施設医療アカデミー 業務改善コースはこちら
記事執筆者プロフィール
眞鍋 哲子(まなべ てつこ) 株式会社ONMUSUBI 代表取締役 / 看護師・介護支援専門員 看護師経験33年、うち高齢者施設看護に23年間従事(社会福祉法人での看護介護統括、主任看護師等を歴任)。産業医科大学 産業保健学部 非常勤講師(老年看護学)として15年以上教鞭をとるほか、福岡県「喀痰吸引等研修 講師養成課程」講師を務める。50床の特養にて年間延べ1,073日の入院を49日へ削減した実績をもとに、全国の高齢者施設に向けた医療・介護連携コンサルティング、研修、デジタル教育プログラム『施設医療アカデミー』を展開している。

